コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


by erizo_1
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The September Issue 「ファッションが教えてくれること」

「アナは、そうね、法王といっていいわ」

このシビれるセリフが出てくるのが、公開中のドキュメンタリー映画「The September Issue」だ。

邦題は「ファッションが教えてくれること
日本では11月公開です。
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これはアメリカン・ヴォーグ編集部が、史上最大にぶ厚い「9月号」を発行するまでの過程を描いたドキュメンタリー。

法王とまで称されるのが、ヴォーグ編集長のアナ・ウィンター
そう、「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープが演じた、あのキャラです。

ファッション業界人の間で話題になっていたんだけど、こーれーがおもしろかった!
いや、マジ、おもしろい!
激しくお勧めです!

映画にはアナを中心に、さらにアナの右腕である名編集者、赤毛のグレース・コディントン

同じく名物編集者のアンドレ・レオン・タイリーや、売れっ子モデルのココ・ロチャやラケル・ジマーマン、あるいはデザイナーのタクーンらが登場して、見たことある顔ばかりでおもしろい。

アナ様のことは毎回NYコレクションで見かけるのですが、いやもう、実物はすごい迫力なのよ。

アナ様が歩いていくと、ザザザーッと左右の人が道をあけるのだ。
まるでモーゼが紅海を割る場面みたい。

さらに「会場が暑い」とアナ様が文句をいったら次から会場が変わったとか。
マーク・ジェイコブスのショーがあまりに遅れてアナ様が「帰る」とご立腹になり出ていったため、次のシーズンは15分しか遅れずにスタートしたとか。

アナ様神話は枚挙にいとまがない。
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わたしが個人的にゴイスー! と思ったのは、グウェン・ステファニーがL.A.M.Bの初ランウェイを打ったとき。

ショーが終わってステージに登場したグウェンが真っ先にキスをしに行ったのは、アナ様のところ。

……え。
思いっきり後回しにされているロックスターの旦那ギャビン・ロスデイルって立場なしぞう……(汗)

かのジェニファー・ロペス姐さんがショーを打ったときも、まっ先にアナ様に挨拶していたし、あのジェニロペにして腰の低い態度だったのだ。

おかげでかなり恐ろしいイメージを抱いていたのだが、この映画を見て、ますますアナ様の恐ろしさ、もとい、偉大さがよくわかったのだ。

「プラダを着た悪魔」のなかで、ヴォーグ編集者ご一行がデザイナーのところに行って、コレクションが始まる前に服をチェックしていたのを覚えているだろうか。

これが映画のなかの誇張ではない。どころか、その十倍くらいすごいのだ。

さて以下ネタばれもあるので、知りたくない人はスキップして下さいね。

なんとイヴ・サンローランのステファノ・ピラーティまでもが、アナ様に服を見てもらっているという驚き!
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おまけにステファノ先生ったら顔をまっ赤にして、たじたじになっているのだ!
……ありえない(汗)

さらに超ベテランのオスカー・デ・ラ・レンタもすべての服をアナ様にチェックしてもらっている!

世界のデザイナーたちがアナ様詣でをするというのは、本当だったのか!

なんでも友だちのメイクさんはプロエンザ・スクーラーの「アナ様チェック用」ステージのメイクをしていたそうで、実際にアナ様はこれがいい、これがよくない、と指示するらしい。

恐るべし。ファッション虎の穴
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そして実際のところアナ様が目をかけている新人デザイナーというのは、だんだんコレクションがよくなっていく。
彼女の鑑識眼はたしかなのだ。

感心したのが、アナ様が積極的に新人を育てていくこと。

映画のなかでは、ちょうどタクーンがCFDA(アメリカファッション協議会)/vogue賞のファイナリストに選ばれてGAPとのコラボをする時期にあたるのだが、そのすべて裏を仕切っているのがアナ様なのだ。

なるほど、アナ様に気に入られたら未来が拓けるというのはこういうことか、というのがよくわかる。

なにしろ業界の人がことごとくアナ様に相談に来るのである。
どうしたら売れるでしょう」
「いい新人デザイナーを紹介して下さい」
「判断して下さい」
とお伺いをたてにきて、それに対してアナ様がテキパキと的確なアドバイスをしていく。

ほとんどファッション界のウォーレン・バフェットとか是川銀蔵みたいなもんである。

なんといってもずばぬけていえるのがその鑑定眼
写真や服を観て、瞬時によしあしが判断できるのである。

しかも鑑定眼が一切ぶれない。
まさしく目利き、というやつだ。

圧巻がヴォーグを編集していく過程で、アナ様がすべてのジャッジを下していくところ。

映画を観ていて初めて知ったのだが、アメリカン・ヴォーグの作り方は、日本の雑誌の作り方とはまったく違うらしい。

そもそも8ヶ月使って一冊の雑誌を作っていくということが驚きだが、編集の仕方もずいぶん違う。

日本では(少なくともわたしの知る限り)雑誌は企画会議をして内容が決まったら、最初に台割りをして、何頁をなににわりあて、何頁をこちらの企画というふうに振り分ける。

各担当編集者は最初に割り振られた持ち分の頁のなかで、やりくりするわけだ。

編集部じたいもファッション班、美容版、カルチャー班といったようにわけられていて、チームごとにカテゴリを担当するのがふつうである。

ところがヴォーグ編集部を見ていると、各ファッションエディターが自分のファッション頁を作って写真を撮り、そのあがりを見てから、この写真を入れる、入れないといったことを、すべてアナ様が独断で裁量しているのである。

つまりあくまで「結果主義」。

白ボードに、撮った写真のコピーをさしこめるマグネット式の台割りがあって、それを随時入れかえたり、はずしたりしているので、全体の流れが一目瞭然。

それを睨みながら、アナ様が「この写真を落とす」とか「順番を変える」といったことを瞬時に決めていき、せっかく台割りに組み込んだ写真をバサバサとボツにしていくのである。

えええーッ、ありえない!
日本の編集部では考えられない、この独裁政権ぶり!

だって一流カメラマンが撮っているんだよ?
一流のモデルを何人も使い、ガリアーノの服を着せ、メイクやヘアスタイリストが働き、たぶん全体で4時間くらいかけて作った写真をバッサリ斬り捨てる

その1枚にどれだけの労苦がこめられているかと思うと、スタッフは泣くに泣けないだろうね。

この映画、ファッション好きや出版業界の人はいうにおよばず、「働きマン」な日本のOLたちにもぜひ観て欲しい。

なぜなら職業倫理が日本社会とはかけ離れていて、目からウロコがボロボロに落ちるからだ。

日本で良いボスといったら、部下の心も掌握して、チームの士気を高め、目配りの利く人物のことではなかろうか。

ところがアナ様はまったく違う。
他人の思惑を考慮しない。

気にいらない写真は平気で斬り捨てるし、部下にもデザイナーにも相手が傷つくようなコトバをズバズバいう。

当代一の人気フォトグラファー、マリオ・テスティーノに対しても容赦ない。
腹をたてたアナ様に対して、必死にご機嫌をとるマリオも立場なしぞう(汗)

相手をどこまでも容赦しないアナ様は、まさしくプラダを着た悪魔なのだ。
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しかし無能な天使と有能な悪魔のどちらかについていくとなったら、わたしならやはり悪魔のアナ様を選ぶだろう。

なぜならこのひとの鑑識眼は究めて公平だから。
相手に対する好悪とか情愛とかで曇っておらず、軸がぶれないのだ。

ファッション業界というところはコネであったり、金銭的なバックだったり、あるいはゲイ・コミュニティの力といったものがとても大きい。

ハタから観ていると「お友だちづきあい」で成りなっているんじゃないかと感じるくらいだ。

しかしこの映画を観て感心したのは、アナ・ウィンターは本人の感性しか頼りにしていないということ。

アナ様の頭には自分の好きなモードしかない。
他人の心なんかどうでもいいのだ。

アナ様の名誉のためにつけくわえておくと、彼女はまたAIDS患者支援のために、莫大な寄付を集めてきた人物である。

アナ・ウィンターが係わっているチャリティは数多く、また新人を育て、業界を団結させてきた貢献は評価されてしかるべきもの。

つまりアナ様は身近な人間に「いいひと」だなんて思われなくてけっこう、だけど自分がやることは最終的に社会貢献になる、という考えをつらぬいているらしい。

だからこそ軸がぶれず、このひとの判断は間違いないと信頼できる。

そしてまたそんなアナ様に一歩も譲らず、ことあるごとに自分の意見を通そうとするグレース・コディントンの姿勢もまたあっぱれだ。
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アーティスト気質のグレースと、ビジネス気質のアナ。
このとんでもなく頑固で我を譲らない二人の駆け引きが、映画の見所になっている。

有名な話だが、アナ様は夜ごとのパーティに最初の10分だけ出席して、すぐに帰るらしい。
夜は早寝で、早起きしてスカッシュしてからご出勤。

贅肉ひとつない体はストイックな生活の賜だし、こまめにエステや美容整形で美貌を保っているのだと想像できる。

本人が完璧だからこそ、あれだけ自信をもってふるまえるわけで、陰での努力は並大抵ではないはず。

そういえば映画の「プラダを着た悪魔」でのメリル・ストリープは夜中にひとり泣くという「女の弱さ」を表現してみせた。

「どんなに権力を持って強気にふるまっている女王でも、心のなかは傷つきやすいひとりの女性

という通俗的な概念を演じてみせてくれたわけだ。
なぜってツンデレのほうが大衆に愛されるキャラクターだからね。

でもそんなのは映画のウソだ。
本物の女王は涙を見せて、大衆の同情を買う必要なんてない。

この映画のなかでのアナ様はビッチだけど、魅力的な面も表れていて、意外やチャーミングだ。

仕事にガンガンに全力を注ぐ姿は、すべての働く女性に見て欲しいほど、気持ちいい。

今までアナ様に対して「怖い」というイメージしかなかったわたしだが、映画を観たあとでは「怖くて、魅力的!」と思えるようになったくらいだ。

こういってはなんだけれど、コレクション会場で見かけるアナ様は、とても不幸そうに見える。

最前列でフラッシュを浴び、周りからもてはやされ、最新モードに身を包んでいても、まとっている雰囲気が冷たく孤独な雰囲気なのだ。

たとえていうなら、スコットランドの荒涼とした丘が浮かんでくるような。

しかしその孤高そうな姿勢こそ、最高にファッショナブルなのではないか。

女王であれば堂々と孤独であっていただきたい。
臣下なんぞに「お淋しいのでは」と同情されるなんて、もってのほか。

エリザベス一世のように誰にも心を許さず、王国を守り抜いて欲しい。

モードの頂点は、おそらく氷でできた玉座なのだろう。

その冷たい冠をかぶりながらも、表情ひとつ変えずに、世界を動かしていくアナの強靱な意志に、わたしたちは女王陛下万歳と叫ぶのである。


こちらは映画の予告編




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いよいよファッションウィークが迫ってきました。
生アナ様をウォッチできる日も近し!

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by erizo_1 | 2009-09-09 14:24 | エンタメの殿堂