コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


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イラクの爆弾処理班を描く傑作「ハート・ロッカー」

今年のアカデミー賞レース確実視されているのが、「ハート・ロッカーThe Hurt Locker)」
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ざらりと心に来る映画です。

「Hurt Locker」というのを、日本語訳にすると「痛みの容れ物」「痛みの在処」といった意味だろうか。

そしてその「痛み」は容赦なく痛いのだ。

舞台はイラク戦争下のバグダッド。
米軍の対テロリスト爆発物処理班兵士たちを描いたドラマで、主人公はすでに800個以上の爆弾を処理してきた命知らずの男。

手持ちカメラ風の撮り方で、ドキュメンタリータッチに演出されていることで、その場にいるような臨場感があり、観ているほうにもひっきりなしに緊迫感が続く。
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いつ爆発するかわからない爆弾や、どこから攻撃してくるかわからない狙撃手。

この映画ではリアルに人が死んでいってしまうため、次はどの出演者が死ぬかわからないという緊迫感を強いられる。

ラルフ・ファインズガイ・ピアーズといった有名役者たちがチョイ役で出てきて、主人公の役者はほとんど顔が知られていないのも、リアリティがある。

なにしろプロットがよく練られていて、つぎの展開が予想できない。
まさにサスペンス、つまり宙ぶらりんの状態で、手に汗を握るはめになるのだ。

アクション映画として文句のつけようないくらい、おもしろい。
そして同時に心がささくれる。

戦争というのはいったん始まったら、戦うしかなくなる。
誰かが敵を撃ち、誰かが爆弾の真空管を抜くしかない、その待ったなしの現実に直面している兵士たちの日常(そう、これが彼らの日常になってしまうのだ)はあまりにハードだ。

そして恒常的に爆弾や銃撃戦にさらされたバグダッドで、それでも日々の営みをしている住民たちにもことばをなくしてしまう。

しかしこの映画のポイントは、戦争の是非を問いかけるものではなくて、兵士の生きざまを取りだしてみせているところだ。
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映画の冒頭に引用されるパラグラフ、「War is a drug」すなわち「戦争はドラッグだ」というのが一貫したテーマになっている。

アメリカでは「アドレナリン・ジャンキー」というスラングがよく使われるが、これは興奮する時にバーッとアドレナリンが出る、その脳内麻薬を好むひとのことを指す。

興奮が欲しくて、あえて危険なことをやり、自己の肉体の限界に挑戦する。
それがアドレナリン・ジャンキーだ。

わかりやすい例でいえば、F1レースやスカイダイビングなどの危険なスポーツをやったり格闘競技をしたり、あるいは賭博、大きな株の売り買いもそれに当てはまるだろう。

その究極の場が、生と死をかける戦場かもしれない。

この映画の主人公はあきらかにアドレナリン・ジャンキーで、はっきりとした生の感触が欲しいために、つねに死と背中合わせのところまで行きたがる。

現場では冷静で有能ながら、規則に従わず、危険をかえりみず、そのために周囲にも迷惑をかけ、子どもに対するやさしい気持ちを持つ人物ながら、平和な暮らしには飽き足らない。

そのジレンマをジェレミー・レナー(Jeremy Renner)はよく演じている。
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監督はキャスリン・ビグロー
なんと女性監督なのだ。

彼女は「Point Break(邦題:ハートブルー)」を撮っていて、これはキアヌ・リーブスとパトリック・スウェイジがFBI潜入捜査官とサーファーを演じたアクション映画。
これもサーフィンを通じた男の友情が見所で、男祭りの佳作だった。

今回の「ハート・ロッカー」は間違いなく彼女の最高傑作
ひとがバタバタと死ぬのに、お涙ちょうだいにしないドライな演出がすばらしい。

このキャスリンさん、女優なみの美女なのに、並の男性監督よりも漢らしい映画を撮るところがおもしろい。

ロサンゼルス映画批評家協会賞では、作品賞、監督賞を受賞。
ニューヨーク映画批評家協会(NYFCC)賞では、作品賞と監督賞を。
また全米映画批評家協会賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞を受賞。

そして国際プレスアカデミー(IPA)が主催するサテライト賞においては、ドラマ部門の作品賞と主演男優賞、監督賞、編集賞の最多4部門に輝くという快挙をはたしている。

ゴールデングローブ賞では3部門でノミネート。

この主人公の生き方に共感できる人はさほど多くないだろう。
けれども彼の存在を否定できる人もまた少ないはずだ。

彼のような兵士たちの犠牲さえ遠くの出来事として平和な日々を送っているわたしとしては、この待ったなしの現実のどこから手をつけられるのか、画面に吹きすさぶ砂嵐に巻き込まれたように、かさかさとした気持ちが残ったのだった。

エンタメ性と骨太なテーマがみごとに一致した傑作。
観る価値ありです。

アメリカでは1月12日よりDVDリリース。
日本公開は2010年3月公開。

注)
全体にあまり露骨に死体を見せることはないのですが、途中でちょっとグロテスクなシーンがあるので、残酷描写が苦手な方は注意。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ハイチの大地震は衝撃的でした。
まさかあんな惨事になろうとは。

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by erizo_1 | 2010-01-15 05:09 | エンタメの殿堂