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コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


by erizo_1
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リストラはつらいよ、「マイレージ・マイライフ」

ジョージ・クルーニー主演の「Up in the Air」(マイレージ・マイライフ)
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この「up in the air」の意味なんですが、ひとつにはこの映画の主人公が飛行機で飛びまわる生活をしているのにひっかけて「空に浮いて」「舞いあがって」という意味。

そしてもうひとつの意味が「宙ぶらりん」「物事が決まっていない」「どうなるか未定」ということ。

よく言う言い回しとしては、たとえばこんなふうに使います。

“Are you just going to leave it up in the air?"  

「なにも決めないでいたいっていうわけ?」

“Plans are still up in the air, what do you want to do?"

「計画はまだ決まってない、どうするつもりだ?」

で、この映画のなかではジョジクルが独身主義者を演じていて、彼は自宅にいるよりも旅に出ている時間のほうが長く、家族とつながった生活をしていない。

そこにひっかけてダブルミーニングになっているわけです。
空に浮いて生きながら」みたいな意味になるのかな。

日本公開の邦題は「マイレージ・マイライフ
て、なんのこっちゃ意味がわかりませんね。

「ノーカントリー」の時も思ったけど、なんで変なウソ英語の題にしてしまって、まともな日本語のタイトルにしないんだろうか。

さて物語はというと、ジョージ・クルーニー演じるライアンはベテランのリストラ屋
リストラはつらいよ、「マイレージ・マイライフ」_c0050387_1774689.jpg

米国では多くの企業が社員を解雇する時に、こうしたリストラ屋を雇って彼らから解雇を告げてもらうというシステムが取られている。

死に神の役目を担って全米を飛行機で旅するジョジクルは、マイレージのポイントを溜めるのが生き甲斐。

そして出張の最中で知りあった同じく出張族の美女(ヴェラ・ファーミガ)と一夜の恋を。
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いっぽうリストラ会社の新入社員である23歳ギャル(アナ・ケンドリック)は「リストラをオンラインで告げる」という新案を出してきて、ジョジクルの立場を脅かしてくる。
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さて宙に浮いたジョジクルはどういう人生を選ぶのか………?

映画を見終わったあと開口一番、
「ジョージ・クルーニーがリストラに来てくれるならいいよね
と部長。
「ジョジクルなら、納得できるよね」
とひとみさん。

え、ちょっと待った、これってそういう映画だったの?

リストラ屋は「イケメンに限る」って物語だったのか。
知らなかったよ!

じゃあ、「ジョジクルがリストラに来てくれない限り、私は解雇されない! ジョジクル呼んでこい」とゴネる手もありですかね!(←違う)

まあ、このように歪んだ解釈は置いておいて(笑)リストラの嵐が吹き荒れる現在、非常にタイムリーなモチーフの映画ですね。

じつは映画のなかで、実際に解雇されたひとたちのフッテージが出てくるんだが、これがすごい。

リアルな人たちのリアルな表情というのは、ものすごいパワーよ。
役者が演じる部分との違いがくっきりしていて、胸に突き刺さる。

米国企業のリストラってのは、冷酷だからね。
当日までなにも打診しないでおいて、いきなり呼び出されて解雇され、「すぐに荷物をまとめて出ていけ」だからね。

ようは企業秘密を漏らさないために解雇当日まで告げないわけだけど、なにも知らされずにいて、
「おまえはもう死んでいる
と切られるのは、きついよね。

このリストラ法を日本では絶対に導入しないで欲しい。
自殺者バリ増になる。

実際のところレイオフというのは、わたしの周りではちっとも珍しいことではないから、かなり胸にこたえました。

といってもヘビーな映画にはなっておらず、「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ライトマン監督だけあって、ほろ苦いコメディに仕上がっています。

脚本はよく練れていて、とにかくセリフが抜群に巧い。
やっぱりハリウッドのトップ脚本家はうまいね、唸っちゃうね。

人生では今まで信じていたこと、たしかだと思っていたことが崩壊する瞬間というのがある。

わたしの知っている限り、誰の人生にも危機が訪れる時があって、どうやら人間にすべての危機を回避する力はないらしい。

金持ちだろうが貧乏だろうが、スピリチャルにクレンジングしようが、風水をやろうが、パワーストーンを持とうが、成功に導く「七つの習慣」を身につけようが、来るものは来るのである。

仕事がなくなる、お金がなくなる、家がなくなる、パートナーが去る、病気になる、事故に遭う、災害に巻き込まれる、大切なひとを亡くす。

いろんな形で危機は訪れる。
その時わたしたちはこの映画に出てくる解雇されたひとたちのように取り乱す。

「そんなの不公平だ、おかしいじゃないか」
「なんで私だけがこんな目に?」
「やり直す手段はないのか。どうにもならないのか」
「私は一生懸命やったのに、いったいなにがいけなかったの?」

でも運命は冷ややかに「理由を聞いても事態は変わりません、パニックになるのは事態を悪くするだけです、すみやかに荷物を持って退去するように」と告げるだけなのだ。

人生で危機は避けられない
けれども、それをどのようにくぐり抜けるかというのは、わたしたちの選択にかかっている。

どん底にある時、ひとの救いになるものはなんなのか。

わたしの経験でいえば、人生のもっともつらい場面で救いになったのはパートナーであり、友だちの力だった。
やっぱり最終的にはひとの力なのだ。

ひとというのは、互いが差しだす愛情のセーフティネットで、どうにかこうにかこの世を生き延びていけるのではなかろうか。

最後にリストラに遭ったひとたちがどう切りぬけたか語るフッテージが出てくるのだが、じつに味わい深い。

なかなか結婚に踏みきらないカレシを連れていってみると、ショック療法になるかもしれないよ。

大作ではないですが、ウエルダンの佳品です。
飛行機のなかで観ると、いちばん気分が出るかもね。



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by erizo_1 | 2010-01-27 17:16 | エンタメの殿堂