コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


by erizo_1
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大統領戦、煽るセールストークで勝ったトランプと、「自国優先主義」のアメリカ

悪夢あけのニューヨーク。
まさかのトランプ勝利で、真っ暗に落ち込んだNYの街。
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photo by Ted S. Warren
と思ったら、続々とNYをはじめ、ロスやアトランタなどで、「#NotMyPresident」のプラカードを掲げた人たちの反対デモが繰り広げられています。
うわー。アメリカが大揺れ。こんな選挙なかったわ。

いやー。ほんとに「まさか」が起こる世の中です。あの開票が進んで行くにつれ悪夢を見ているような気分になるというね。
去年の今ごろはお笑いポジションにいたトランプなのに。

さてトランプ大統領になると、どうなるか。わたしでもはっきりと予言できることがあります。

アレック・ボールドウィンは今後4年間、ネタに困らない
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②日本は海外派兵することになる。しかもガチの紛争地帯に。

TPPにアメリカ不参加。

しかし世界の誰が見ても「やばいだろ!と感じさせるナゾの髪型のオレンジ色のおやじがトップの座についたことで、ある意味、アメリカの直面している問題があけすけになったのはよかったかもしれないですね。

やはり今回はNYに住んでいてはわからない中央部のディープなアメリカの実態があきらかになったという感じ。

アメリカのブルーカラーたちがトランプを支持したこと、従来の政治家に対する不信を突きつけたこと。
既成のメディアがまるで影響力を失ったこと。

2000年代の流れがグローバリズムだったわけですが、そのために海外の安い人件費に仕事を奪われてきた国内産業の労働者たち、衰退したラスト・ベルト(錆びついた一帯)と呼ばれる中央部の人たちが、「不法移民締め出し」「保護貿易主義」を唱えるトランプを支持したわけです。

ただ日本での報道を読むと、
「これまで声をあげていなかったサイレント・マジョリティが草の根主義で、トランプを支持した」
みたいな解説もあって、そんなきれいごとかな、という気持ちもあります。

わたしは政治ジャーナリストではないので、個人的に感じた範囲でのことを書いてみると、まず強く感じたのが「新聞がない時代」の選挙であること。

もちろんずっと以前から新聞は衰退していたのだけれど、今回はトランプ、バーニー・サンダース、ヒラリー・クリントンという立ちイチが際だった候補が出たため、その影響がハッキリ出た印象がありました。

共和党なり、民主党なり、その支持者が読む媒体がもはや自分の陣営サイドのメディアになっているんですよね。

大新聞が幅を利かすというより、その候補の立ちイチに近い媒体に接している。

どう違っていたかというと、まずサンダース支持者でいえば、ツイッターやフェイスブックでのシェア率が高かった。
つまり「熱い」支持者がいたわけです。

それに比べたらヒラリーのシェア率は低かった。

ヒラリーの場合は巨大企業の利権と結びついている、イラク戦争に合意した、メール漏洩事件といったネガティブなイメージもついてまわるせいか、消極的支持が多かった印象です。
少なくともツイッターやフェイスブックでがんがんシェアされているような熱量はなかった。

いっぽうトランプはどうか?
NYに住んでいれば周囲にトランプ支持者なんてめったにいないものですが、なんとフェイスブックでつながっている白人男性のなかにもトランプ支持者が数名いたのです。

「うお、マジでいるんだ!?」と茫然としたんですが、彼らはじつに熱心にポストをあげ続けるんですね。

その熱量はヒラリー支持者とはまったく違う。
そしてどこから探してきたんだと思うようなナゾ記事をシェアしているわけです。
もうトランプ支持と、リベラル支持とでは、読んでいるオンライン記事からして分断されている。

彼らは製造業でもブルーカラーでもない。ではいったい何をもってトランプを支持していたのか。
彼らが何度も繰り返していた主張がこれ。

難民をアメリカに入れるな」
イスラム教徒を入れるな」

ヨーロッパのようにイスラム移民を受けいれて、アメリカ国内をテロリストの温床にするなという危機感を持っている人が多いのだと、少なからず衝撃を受けました。

イスラム教徒は隔離して調べるべきだ」と述べている知人に「それでは第二次大戦中の日系人収容所のようなものではないか」と意見を述べたのですが、彼は「もっと大きな世界観で見なくてはならない」と長文の反論をバリバリに述べていました。
彼は難民を受けいれない日本の政策を絶賛していたのです。

彼らはなにかあったら自分たちでも銃を手に取って闘うといった考えの銃支持者たち。小さな政府を掲げて、独立心も強い。

そういう層にとってみたら「オバマは手ぬるい」と腹立たしかったようです。

ニューヨークは今までにワールドトレードセンターの地下爆破テロや、9.11の同時多発テロもあったけれど、住んでいる実感としては、それほどテロを怖れているとは感じない。
けれどもアメリカ全体でいえば、あきらかにイスラム・フォビアがたくさんいる。

それからトランプ支持者たちのポストでよく見かけたのが、
America First
というスローガン。

つまり「アメリカ人なんだから、アメリカを優先せよ」という主張。

この発想にも正直いって驚きました。
だってアメリカが国益を優先しなかったことなんてある?

アメリカという国は経済軍事大国として、つねに自国に有益になるように世界情勢に介入してジャイアンしてきたというのが、アメリカ人以外の全地球人の認識でしょう。
ところが「アメリカのなかの人」にとっては違うらしい。

「アメリカは体を張って血を流して犠牲を払って、世界の平和を守ってきた。
それなのに仕事を他国に取られ、移民に仕事を取られている。
まずアメリカの経済と仕事を優先しろ」
という見解なんですね。

たしかにこれもアメリカの一般国民にしてみたら、彼らが世界戦略をたてるわけではないから、命令どおり戦地に赴き、戦死したり、負傷した兵士が山ほどいるわけで、その犠牲が身近にあるのはたしか。

「オバマが不法移民たちに投票権を与えて選挙に勝とうとしている」
というデマもオンラインで流れていました。

まともに考えたら、不法移民たちに投票権があるわけないんだけど、オンラインだと平気でそういうデマが出てくる。

実際に住んでいる身としては、オバマ政権になってから外国人の就労ビザ取得がきびしくなっているし、それは国として当然の政策だとも納得しているわけです。

ところが「アメリカのなかの人」の感覚としては、不法移民や難民を際限なく受けいれていることになっているらしい。

こちらにある図は、投票の数から「もし××だけが投票していたら」という分け方をしてみたもの。
Brilliant Mapsで大きい版が見られますので、ご参照下さい。
Map created by Ste Kinney-Fields
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これで見ると、有色人種だけの投票なら全員がヒラリー。
女性だけ投票でも圧倒的にヒラリー。
そして男性だけだったら圧倒的にトランプ。

そして白人だけだと、断トツにトランプ。

さらに大卒か、大卒でないかでも差が出ていて、大卒白人は東海岸と西海岸の両端ではヒラリー支持。
NYのような都市部に住んでいるのがこのタイプで、現代の産業に就いているリベラル層

そして「白人男性」だけに絞ると、トランプ大人気。

ちなみに国内の雇用促進に「クリーンエネルギーなどの新しい産業で雇用を促進する」といったのがヒラリー。

「メキシコで車を作ったら、35%の関税をかけてやる。
中国産のものには45%の関税をかける」
といったのがトランプ。

ヒラリーの提案のほうが現実的な可能性はあるのに、赤い人たちがやんやと喝采したのはトランプのほう。

つまりトランプの場合は政策ではなくて、じつはやっていたのはセールストークだったんですね。

メキシコ国境に巨大な壁を作る、それもメキシコに建設費を払わせる」

なんて現実にはできないことなのだけど、お年寄りに健康布団を売りつけるセールスマンみたいなものと考えれば、ツボを心得たセールストークではある。

実際にトランプ支持者の集会に何度も行ってきたジャーナリストの津山恵子さんによると、トランプの集会では、「Build the Wall!」(壁を建てろ!)というシュプレヒコールが鳴り響いていたそうです。

どう考えてもまともじゃないけれど、集団心理の操作としては当を得ている。
わたし自身もTPPには不賛成ですが、ヒラリーも今回はTPP不支持という立場でした。

でも人間はなかなか「TPP反対!」というシュプレヒコールでは熱くならない。いっぽう「壁をたてろ!」というわかりやすい言葉には熱がこもる。

トランプはずばり人心を煽って勝ちあがったわけで、わたしのなかではこれは完璧に「禁じ手」で、やってはいけない手段だと思う。

そして今回あぶり出されたのが、アメリカにはじつは驚くほど男尊女卑、ミソジニスト(女性蔑視)の男が多いということ。

あるトランプ支持者のサイトでは、いかに女がだめか、ということを証明したいらしく「米軍の女性兵士が訓練でヘマをしでかしている映像」をいくつも貼りつけていました。

「よくこんな画像を探し出してきて貼りつける暇人がいるものだ」
と驚いたけど、そういう偏見おやじに限ってミョーに熱心なんですよね。

つまり女性が大統領となって米軍を指揮する最高司令官になったら、イスラム国や中国やロシア相手に勝てない、敵になめられるぞ、ということらしい。

愕然としたけれども、なるほど、こういうミソジニストが山ほどいるのだと腑に落ちました。

建前では男女や人種の平等と、文化の多様性を唱えているアメリカ社会だけど、実際にはまったくそうじゃないわけです。

日本でも石原慎太郎が「三国人」発言とか「ババア」発言とか同性愛差別とか障害者差別とか、あれだけ暴言吐きまくっていたのにも係わらず、都民が支持し続けたのと同じことで、
「暴言を吐くやんちゃな男
というのはポピュリズムではすごく強い。

石原慎太郎に投票していた人たちは、トランプ支持を笑えないと思う。

サイレント・マジョリティというけれど、わたしの目には「白人保守おやじの価値観」が勝った、という印象。揺れ戻しというんですかね。

グローバリズムで経済的にもどんどん苦しくなり、オバマ・ケアでかえって負担が増えて納得がいかず、気持ち的にも「同性婚なんか進めているヒマがあったら、イスラム追い出せや」と不満を持っていた層が、今回一気に爆発してテーブルをひっくり返したというか。

まさにBrexitと同じ現象で、排他的、自国優先主義、疑似懐古的というのが、今や世界の流れとなっていて、アメリカよ、おまえもか、という暗澹たる思いです。
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今さらながら思い返すと、紙の新聞というのは情報量が多かったんですよね。
紙媒体は向こうが情報をあれこれと提供してくれる。
けれどもオンラインの時代は自分から探したピンポイントの記事を読むことになる。

そこでは「熱量」が有利になるんだな、としみじみ実感。
もっとはっきりいえば「怒り」とか「憎悪」とか「罵詈雑言」といったほうが拡散しやすいし、熱を帯びやすい。

アメリカでもリベラル派は連帯しにくいもので、考えの幅がかなりあるから、同じ民主党支持でもサンダース支持者はヒラリーを支持するわけでもないし、かといってサード・パーティに流れるわけでもない。
それぞれの立ちイチが微妙に違うから連帯しない。

いっぽう反対に「外国人排斥」とか「国防」といったことは熱狂しやすい。
国VS.敵祖の図式ができるせいか、その一点で団結しやすい。

でもってトランプはネットでおもちゃにされて笑われていたけど、「ヒラリー憎し」の層は粘着的に批判ポストを貼りつけていましたからね。

日本でも同じことでオンラインだとネトウヨの罵詈雑言がすさまじいし、その団結力や熱量がリベラルを圧倒的に上回っていて、その熱さに対抗する手段は、まだ見つかっていない。

今回の選挙結果をポジティブに考えれば、従来の政治家たちが否定された、既成の大きなメディアの影響力が地に落ちた、政治献金に頼る方法が崩れた、グローバリズムに否を唱えた、ジリ貧の労働者たちが声をあげたというように、既存のシステムがいったん崩壊したのはよかった。
アメリカの問題がおおっぴらになったんだから。

どこの国の誰が見ても「あり得ない」と思うトランプが大統領になったことで、
アメリカ、大丈夫なのか?
「うちの国、大丈夫か」
と世界が考えるに違いなく、それはショック療法になるかもしれない。

今回は共和党が下院も勝利して、すべてを共和党が持っていった形だから、公務員は減らされて、富裕層や企業への税金は減税、福祉カット、不法移民の強制送還、TPP撤退、地球温暖化対策への資金は撤回という流れになるでしょうね。
国内産業の復興は公約したことだから、がんばっていただきたいものです。

いっぽうイスラム教徒に対する差別やマイノリティ差別が助長しないように、女性やLGBTの権利が後退しないように人権を守ることは、われわれ住人としては絶対に譲らないでいなくちゃいけない。

そしてISISに対してより強硬策を取るのは確実だから、中東の紛争はもとより、アフリカでの代理戦争や資源をめぐる紛争が勃発しないことを願うばかりです。

ところで今回の選挙で、もうひとつ驚きが。
あらたに7州で、マリファナが合法化に。
なんとマリファナにとっては大躍進の年だったのです。
医療用マリファナでは、もう半数以上の州が合法になっていますね。

アメリカの進んでいるところと、保守的なところが同時に現れているのが、すごいです。

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ディープなアメリカってなんなのか。
津山さんの「超教育格差大国アメリカ」をぜひご一読下さい。

超教育格差大国アメリカ
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by erizo_1 | 2016-11-11 18:51 | 社会の時間