コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


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太地のイルカ漁をめぐるドキュメンタリー「おクジラさま」

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ジャパンソサエティで、佐々木芽生監督の「おクジラさま ふたつの正義の物語」が全米初公開されました。

佐々木芽生監督はアートコレクター夫妻を扱ったドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」で話題を呼んだ監督です。
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今回の「おクジラさま」はイルカ追い込み漁の町、太地町で2010年から撮影されたという、問題を含んだドキュメンタリー映画です。

オスカー賞に輝いた「ザ・コーヴ」で世界中に悪名高くなってしまった太地町
けれどもそこでの描かれ方が、あまりに一方的に漁師たちを「」にしていることに、佐々木監督は違和感を覚えて、この作品を作るに至ったといいます。

ジャーナリスト出身である佐々木監督にとっては、まず双方の意見を公平にテーブルに持ち出すことが、大切だと考えていたとのこと。

欧米規準でいえば、イルカやクジラを食べることは、犬や猫を食べること、あるいはゴリラやチンパンジーなどの霊長類を食べることと同じくらいの嫌悪感をもたらすといっていいでしょう。

欧米人にしたら、なぜ太地町の人たちが残酷な漁を続けるのか理解できない。
わざわざイルカを食べなくたっていいだろう、というのが欧米では一般的な意見でしょう。

いっぽう日本では外圧がかかることで「これが自分たちの文化なのだ、伝統なのだ、知らない人間が口を出すな」とナショナリズムに走って反発してしまうという結果も生み出しています。

いまや変化と伝統、西欧文化と日本文化、グローバリズムとローカリズムとの対立にまでなっているイルカ追い込み漁問題。

佐々木監督は、漁師側と反対派の立場を中立的にとらえ、映画にはさまざまな人たちが登場します。

太地町に住み込んで、住民にも溶けこんでいくアメリカ人ジャーナリスト
イルカ漁を生計としてきた漁師たち。
シーシェパードの男性を始めとする反対派の人々。
公開討論をうながす右翼の男性。
(ちなみにこの人がものすごいキャラ立ちしていて、良いコミックリリーフになっています。すごくいい味出している!)

「この映画では、誰も悪者として描かないように注意を払った」という佐々木監督。

出てくる人たちは反対派、そして漁師や町長側、どちらの意見も納得できるんですね。

私自身、「なぜ太地の漁師たちは批判されながらも漁を続けるのだろう」とふしぎだったのですが、彼ら自身の言葉を聞いていると、ああ、そういう感覚なのだな、と初めて腑に落ちるものがありました。

漁師というのは海に生きる人たちで、勤め人のように転職ができる人たちとは違う。その海で獲れるもので暮らすしかない。

そしていっぽうシーシェパードも、日本ではその過激な行動から、エコ・テロリストのような恐い印象がありますが、映画で出てくるのは父と娘で、なにも日本バッシングしているわけではない。

反対派の人たちは、イルカを救いたい一心で自分たちの時間を費やしているわけです。

イルカの肉そのものは卸値が下がっていて、実際にはイルカの生体を水族館に売ることのほうがビジネスとして成立しているそうです。

そのためWAZA(世界動物園水族館協会)は「追い込み漁で取ったイルカは買わないように」という通達を出ししていますが、ロシアと中国、北朝鮮といった国はなお買いつけています。

私自身は、できれば捕鯨もイルカ追い込み漁もなくなることを望んでいるのですが、とりあえず調査捕鯨と、近海のイルカ漁とは分けて考えたほうがいいのではないかと感じました。

世界的な流れでいえば、イルカ漁にはあまり将来はないのではないかと思うんですね。
アメリカでは、すでにシャチやイルカのショーも「動物虐待」として問題視され始めているし、シーワールドもヤリ玉にあがっている。

大まかな潮流でいえば、今後は高等な知能を持つ動物に対しては芸をさせたり、閉じこめたりするのはよくないという方向にむかって行くのではないかと思うんですよ。

では、アメリカ人はこの映画を見てどう思うのか。

映画のあとで質疑応答がありましたが、会場には「自分は動物アクティビストです」という反対派の人もいました。
しかしそういう人でも、この映画を作ってくれてよかったというコメントをしていました。
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また「もっとイルカの知能の高さについて、科学者の視点を入れるべきだ」というアメリカ人観客の意見もありました。

「漁師たちは産業がなくなっていっている炭鉱夫たちに似ている。アメリカでも同じように時代に取り残された炭鉱はたくさんある。次の映画は炭鉱夫をテーマにしたらどうか」
という意見もありました。

なにより重要なのが、この映画を見れば、なぜ漁師たちが漁をやめないのか、その理由が彼らの口で語られるし、また彼らがふつうに生きている人たちだとわかるところです。

映画の中で、シーシェパードと町長の公開討論会があるのですが、そのなかでシーシェパード側が、
「太地町を変えるのに、自分たちは力になる」
という問いかけをするのですね。

それに対して町長が、
太地町のことは太地町の人が決める。太地町を変えたいと思うなら、太地に住んで住民になってから考えて欲しい」
といったことを述べるのですが、ここで会場から拍手があがっていました。

つまり映画を見たアメリカ人たち、彼らのほぼ全員がクジラおよびイルカ漁には反対であるし、ましてや食べるなんてあり得ないという人たちではありますが、それでも住民の言葉には一理あると感じたのでしょう。

映画の中で太地に住んだアメリカ人ジャーナリストが、
「動物にも絶滅危機種というのはあるが、太地のような絆の強い村落こそ絶滅危機種だと思う」
といった言葉が非常に心に残りました。

そしてこの映画ではじめて知ったのは、太地町の美しさ
湾を見下ろして立つ町なみは、まるでジブリ映画に出てくるような風景で、とてもきれいです。

これなら斜陽産業であるイルカ漁よりも、むしろ観光地として、ホエールウォッチングやドルフィンウォッチングをウリにしたほうがよほど産業としては未来があるのではないか、と思えました。

クジラおよびイルカ漁に反対であっても賛成であっても、これは互いの意見を知るために、ぜひ見てもらいたい映画です。

非常によく作られたドキュメンタリーとして、必ず見た人の心に「考えること」を植えつけてくれる映画です。

分断がめだつ昨今ですが、このフェアな姿勢の映画は、対話の糸口を、互いを理解することを喚起してくれると思います。


日本での公開は9月
ユーロスペース渋谷などで公開!
また書籍も8月に販売します。

おクジラさま ふたつの正義の物語


「おクジラさま」オフィシャルサイト



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by erizo_1 | 2017-07-19 15:05 | エンタメの殿堂