ディケンズの講演会
2005年 03月 10日
二日ほど前のこと、いきなり夜中の2時に電話がかかってきて、
「エリ。オレだよ、オレ。いまフィラデルフィアにいるんだよ」
という酔っぱらった男の声が。
おおおおー。なんだ、佐藤昇さんじゃないか!
むかし劇団でいっしょだった役者の佐藤昇さんから、NYに行くから会おうという電話だったのだ>夜中の2時だっちゅう!
えー。あてくし、じつは大学の頃にシェイクスピア・シアターという小劇団に入っていたことがあったのです。
昇さんはその時の大先輩。シェイクスピア全作品37本に出演した経験ありの役者さんです。
昇さんは伊丹十三監督の『たんぽぽ』や『マルサの女2』に出たことがあるんだけど、たしかマルサ2ではやくざの手下みたいな役をやっていたなー。
当時劇団にいた役者さんでは、その後テレビや舞台の「レミゼラブル」「オペラ座の怪人」などで活躍している田代隆秀さん。
それから北野監督の「ソナチネ」やオーストラリア映画「Paradise Road(邦題:何がアンボンで裁かれたか)」(第二次世界大戦時の欧米人女性収容所を舞台に、ケイト・ブランシェットが出演している傑作!)で好演した渡辺哲さん
そして紀伊国屋演劇大賞をとっていまや演劇界の重鎮である吉田鋼太郎くんなどが在籍していました。
いやー、すげー古い話だね。
ほとんどジュラ紀なみの懐古ネタだな。
で、今回はなにかといと、駒沢大学教授の荒井良雄によるディケンズの朗読会に、佐藤昇さん、蔀英二さんというふたりの役者さんもついてきて、パフォーマンスするってことらしい。
えーと、なんでも世界規模で「ディケンズ協会」(Dickens Fellowship)なるものがあるそう。
チャールズ・ディケンズの研究会ですね。
で、アメリカのフィラデルフィアとNYの支部が荒井先生をお招きして、今回の講演とあいなったと。こういうことらしい。
ていうわけで、さっそく行ってきました、教会に。
場所はEpiscopal church of the Good shepherdという教会。
古くてりっぱな教会堂のなかレクチャーが行われたのだが、聴衆はアメリカ人のおじいちゃん、おばあちゃんがメイン。つまり全員日本語がわからないひとたち。
たとえるなら「夏目漱石のチェコ語訳を聴きにくる漱石研究会のみなさん」のようなニッチなオーディエンスといいましょうか。
すげーヲタワールド!
そこで荒井先生がディケンズやアラン・ポーの朗読をして、さらに役者ふたりが歌舞伎の「ういろう売り」や落語の「じゅげむ」などを聴かせるという趣向なのね。
なんちゅうかすごい企画ではある。
アメリカ人に「じゅげむ」を聴かせて、ディケンズについて語る。
うーむ。頭がこんがらがりそうです。
そんな荒井先生は銀髪痩躯のジェントルマン。
いかにも英文学博士って面影で、御年70歳にならんとするのに、まさにかくしゃくたること、鶴のごとし。
そしてまた先生の朗読がすごいのだ。その文中の役になりきって読むんだね。声色をかえ、役になりきり、声を張り上げ、なんつうか「叫ぶ詩人の会」みたいではある。
で、レクチャーのあとはディケンズ協会の支部長さんにおごっていただき、歓談を(私もまるっきり関係ないのに参加)
さらにアイリッシュバーに行って先生にお酒をごちそうになり、スコッチを飲んでいたら、酔っぱらってしまった。
荒井先生も酔っていらしたのか、「批評家なんていうのは世間でいちばんつまらない商売だ」とか「大学教授が名声をもとめたらお終いだ」とか、パブで熱く語る、語る。
「芸術は生活に負けてはいかん! 芸術は生活との戦いなんだ。芸術家は生活に負けてはいかんのだよ!!!」
熱く激白する大先生。
となりで昇さんはトホホという顔つきであった(苦笑)そりゃ、そうだよね。役者さんはよほどの売れっ子でもないかぎり、生活苦に追われるからね(涙)
私が劇団にいたのは学生時代だからノンキなものだけど、劇団員の男性はたいていホテルの宴会係でバイトをして、女性は水商売をやって食べていたのだから、つくづく「偉いもんだなー」と思っていた。
役者さんってのは続けられるだけで、すごい職業よ。
あれから20年も経つけど、いまでも役者さんたちで活躍しているひとたちがいることに、感動を覚えるなあ。よほどの才能と意志力がなければ、できないことだものね。なにごとも持続できるっていうのは、それだけで偉業だす。
荒井先生も70歳にしてこの情熱はすばらしい!
私もすっかり酔っぱらってしまい「いやー、先生、熱いっす、熱すぎ!」とバシバシ先生の肩を叩き、「いやー。先生の朗読すごかったっす。もう先生の目が彼方にイッてるんで、ビビりました。背中から炎が出てるかと思ったっす!」と失礼なことを喋りまくる。
先生がホテルに帰られてからも、まだしつこく3人で残って飲んでいると、昇さんがしみじみこういったのでした。
「いやー。エリ、おまえ、すげーな」
「はあ?」
「あの先生はね、偉い先生なんだよ。よくおまえ、あんなタメ口で話すねえ。おまえは芝居はヘタだったけど、むかしから素直だったよなあ」
ハッ、そうだったのか。素直っつうか無礼? 私は自分のことを小心者と思っていたんだけど、もしやたんなる失敬なヤツだったのか。
先生、すいませんでした!!!
夜中の2時まで飲んでいたら、とうとう心配したピータローが迎えに来て、べろべろに酔っぱらったエリぞうはキャブに押し込められて帰ったのでした。
おかげで翌日は二日酔いで一日なにも食べられず、げろげろ。
ただの酔っぱらリーナだな(←おやじギャグ)


