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コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


by erizo_1
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ニューヨークとJ.D.サリンジャー

今週世界を駆けめぐったのが、J.D.サリンジャーが逝去したというニュースだった。

ずっと隠とんしていたので、まだ存命だったのかとむしろ意外な気持ちもしたけれども、最後の最後まで姿を見せなかったのはあっぱれな生きざまだったと思う。
ニューヨークとJ.D.サリンジャー_c0050387_15111497.jpg

ご多分にもれず、わたしも思春期に「ライ麦畑でつかまえて」を読んで、はまった口だった。

フラニーとゾーイ」では、たしかフラニーがカシミアのスウェターを着ていたシーンがあったと思うけれど、それがアメリカ東部らしいファッションに思えて憧れた覚えがある。

サリンジャーという作家は思春期から青春期にかけてのやり場のない気持ちに、まっすぐ届く言葉を持っている。

ライ麦畑で子どもを受けとめるキャッチャーだとか、「フラニーとゾーイ」に出てくる『太っちょのおばさま』だとか、「バナナフィッシュにうってつけの日」に出てくる『バナナフィッシュ』だとか。

説明ではなくて「感性」として伝わってくる何かが、十代の頃のひりひりと孤独な心に寄りそってくれるものだった。

「ライ麦畑でつかまえて」は、ホールデン・コールフィールド少年が家出をして三日間をニューヨークで過ごす物語だ。

そのニューヨークは孤独な家出少年にふさわしい、寒くて冷たい街だった印象がある。
サイモン・アンド・ガーファンクルの「アイ・アム・ア・ロック」がラジオから流れていそうな光景を思い浮かべた。

月日が移り変わるうちにさまざまな流行があり、そのつどわたしにとってパニューヨークはパティ・スミスがいる街だったり、モヒカン刈りのタクシードライバーと少女娼婦のいる街だったり、ティファニーの前で朝食をとる街だったり、アニー・ホールがいる街だったり、ジョン・レノンが倒れた街だったり、ランDMCがいる街だったり、スパイク・リーが撮る街だったり、スーパーモデルたちが闊歩する街だったり、SATCの舞台になった街だったりした。

それでも思春期に蒔かれた物語というのは、ふしぎと永遠に生き続けるものだ。

「ライ麦畑」のなかで、ホールデン少年はアメリカ自然史博物館のことを世界でいちばん好きな場所だと評するところがある。

初めてのNY旅行でこの博物館を訪れた時に、ああ、これがホールデン少年のいっていた場所かと感慨深かった。

そしてそこは今でもニューヨークでいちばん好きな場所だ。

時おり雑誌に載るニューヨークの写真を見ると、ここが自分の住んでいる街だとうまく認識できないことがある。

写真に切りとられたカッコいい光景と、自分が住んでいる日常の現実がすりあわないのだ。

わたしの住むニューヨークは、世界中のどの場所とも等しく、日々を生きぬく面倒さと日常の小さな喜びに満ちたふつうの町だ。

けれどもニューヨークをニューヨークにしているのは、小説や映画のなかで捧げられてきた多くの物語なのではないか。

どんな都会にも物語がある。
そしてわたしにとって永遠の物語は、ニューヨークとは社会にうまく適応できない少年が家出をして過ごす街なのだ。

たぶんこの街には、かつてホールデン・コールフィールドだった人間がたくさん世界中から流れついて住んでいる。

かつてフラニーだったひともたくさんいるだろう。
今でも多くのホールデンがこの街に流れてきては去っている。

わたしがニューヨークを愛する理由はそこにある。
ここではない、どこかにある街。

わたしにとってニューヨークはいつまでたっても孤独な心が吹き寄せられる街なのだ。


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by erizo_1 | 2010-02-04 15:16 | カルチャーの夕べ