コラムニスト 黒部エリがニューヨークからお届けします。Blog by Eri Kurobe


by erizo_1
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ニューヨークの地下鉄で

マンハッタンの地下鉄で。
向かい側の席に、若い男の子同士のカップルが座っていた。

ひとりはメガネをかけた華奢な男の子で、前髪を長く垂らして、恋人の肩にもたれかかるようにしながら、目をつむっている。

もうひとりの男の子はニットキャップをかぶって、無精ひげを生やしている。
ひき結んだ口元。
先の剥げたティンバーランドのブーツ。
カフェオレ色の肌をした彼は車内のどこかを見つめ、ここにいながら、ここにいない瞳をしていた。

ふたりとも決してきれいな恰好じゃない。
ジーンズにはペイントの跡がそこかしこにあって、破れている。おそらく画学生か、あるいは働きながら絵でも描いている子たちなのだろう。

ニューヨークの街角にたくさんいる、夢と野心だけは胸に抱えきれないほど持っている青年たち。

大きすぎる自我を、Tシャツのなかにムリやり押し込めているような若い恋人たち。

彼らの足下においた紙袋には、絵の額が入っていた。
目で探ってみると、Jean-Michel Basquiatの文字が読めた。

ジャン・ミッシェル・バスキア。
ニューヨークが生んだ、早逝の天才画家。

そういえばブルックリン美術館では、いまバスキアの展覧会をやっている。

若い男の子のカップルが今日買ったのがバスキアの複製画であるということが、まるで青空に放物線を描く白いボールのように、心にすとんと飛びこんできた。

ふいにニューヨークにいるな、と強く感じた。

ふだんはニューヨークにいることを忘れている。
けれど、ときどき思い出させてくれるのが、こんな光景だ。
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by erizo_1 | 2005-05-02 14:16 | カルチャーの夕べ