パンケーキの箱に隠されたヤバい人種差別。「ジェマイマおばさん」とは誰?
2020年 06月 21日

Aunt Jemima (アント・ジェマイマ)のブランドを持つ、クエーカー・オーツ社(親会社ペプシコ)が、6月17日に、
「オリジナルが人種偏見にもとづいたものだったから」
とネーミングと、ロゴイメージを変えることを発表しました。
現在、大きく盛りあがっているBlack Lives Matter(ブラックライヴズ・マター)、反黒人差別のムーブメントを受けての決断です。
アメリカに住んだことのある人、旅行でもスーパーマーケットに行ったことがある人なら、朝食売場か冷凍食品売場で見たことがあるはず。
「アント・ジェマイマ パンケーキミックス」
私も買ったことがありますが、いかにもアメリカンなおいしいパンケーキを手軽に作ることができます。
アメリカン・カルチャーを代表する商品です。

「ジェマイマ」というと、ピーター・ラビットのファンは「あひるのジマイマさん」を思い出す人も多いかもしれませんが、それと同じネーミングです。
箱には、ブラックの女性の顔が描いていて、この人がジェマイマさんらしい。
いったいこれのどこがいけないのか?
このロゴとネーミングは、なにもブラックの社長が「料理自慢だった叔母さんのレシピを商品にしたもの」ではないのです。
そもそも「ジェマイマおばさん」は実在しない。
では、ジェマイマおばさんとは誰なのか?
初期のパッケージはこんな感じで、太った黒人の中年女性、いかにも女中という出で立ちです。
これがもともとの「ジェマイマおばさん」

奴隷制度の時代には「ハウス・二グロ」と呼ばれる、屋敷のなかの用を足す奴隷たちがいました。
畑仕事をする「フィールド・二グロ」よりも作業は楽だし、衣食も足りていたから、農園の黒人奴隷からしたら特権に映ったでしょうが、それでも奴隷であるのには変わりない。
一生ただ働きさせられて、自由にどこかに行くことができず、結婚も出産も自由にできない存在であるのは変わりない。

「Aunt」というのも「叔母さん」という親戚をあらわすものではなく、年取った黒人奴隷につける呼び方です。
台所を預かっていたのは、黒人女性の奴隷たちで、「風と共に去りぬ」でのマミーという奴隷のように、
「太った気の良い、ニコニコして白人のご主人に仕える、料理上手のおばさん」
というイメージが浸透していたのです。

こういう「太った中年のマミー」のイメージというのは、白人のご主人にとっては魅力的ではないので、白人の奥様にとって脅威にならないという意味もあったらしい。
実際には、多くの黒人奴隷女性たちが、白人の奴隷所有者やボスにレイプされたため、現在のブラックの多くがミックスであるのですが、そのあたりの「性的」イメージを持ち込まないのが、「太ったマミー」だったわけです。
「ジェマイマ」の名前は、19世紀に流行った「ミンストレル・ショー」の登場人物から来ているそう。
このショーでは、白人が黒塗りにして、まぬけな黒人を演じるというコメディだったのだけれど、そのなかに出てくる「年寄りのジェマイマばあさん」
そして1898年に「セルフライジング・パンケーキ・フラワーミックス」(小麦粉にベイキングパウダーが加えられていて牛乳を加えると膨らむ生地)を、創業者が売り出す時に、このジェマイマさんのイメージを利用したらしい。
そして元奴隷であったナンシー・グリーンさんをモデルにして売り出し、「古き良き南部」のイメージをアピールしたのです。

「南部の料理上手な黒人奴隷のおばさん」が作るパンケーキだからおいしい、というセールスであったわけです。
近年になってから、ジェマイマばあさんはきれいな黒人女性のイラストに変わったのだけれど、あいかわらず実在しない「ジェマイマ」であることは変わりない。

この「クエーカー・オーツ社」は、現在ペプシコの傘下となっていますが、実はこのブランドですらクエーカー教徒には一切関係なく、たんにクエーカー教徒の誠実さ、実直さのイメージを借りたブランディングです。

てっきりクエーカー教徒が作っているのだと思っていたので、知った時は驚きました。
またアメリカでは有名な Uncle Ben's Rice 「アンクル・ベンのライス」というロングセラー商品もあります。
現在は、マース社の傘下。

こちらは黒人の老人が蝶ネクタイをつけたイラストがトレードマークです。
では、この「ベンおじさん」とは誰なのか?
これまた架空の存在で、ハウス・二グロである召使いの老人を表しているのです。
「アンクル」という呼び名は年寄りの黒人奴隷や召使いを指すタームで、「アンクル・トムの小屋」と同じ使い方になります。
ちなみに奴隷制度の悲惨さと悲しみを表した小説とされる「アンクル・トムの小屋」は、20世紀半ばから「白人に従順な、敗北主義の象徴」とされて、この主人公を唾棄するブラックが多いので、ご注意を。
実はこのインスタントライスは、学者による発明であって、テキサスに工場を持つ企業なのです。
けれども「イギリス人とドイツ人の発明によるインスタントライスです」
という売り方でアピールしても、まったく美味しそうに響かない。
人工的な代物に聞こえて、商品アピールに欠けてしまう。
そこでマーケティングとして、架空の「ベンじいさん」を作り出したもの。

つまりモーガン・フリーマンみたいな実直そうな黒人奴隷がサーブしてくれる「南部スタイルのライス」という売り出し方だったから、美味しそうに響いて、売れたわけです。
「ドライビング・ミス・デイジー」のように、実直で、主人を裏切らず、つくしてくれる召使いがいるというのは、アメリカ社会では、ある種のファンタジーをもたらしてくれるイメージといえるでしょう。
日本でも「マダム・ヤンの中華」というのが売り出されたことがありましたが、あれも架空の楊夫人、台湾だか香港だかのマダムの本格的レシピだから美味しそう、というマーケティングでした。
アメリカでも寿司屋やラーメン屋は、たとえ他の民族が経営していても、日本的なネーミングの店名にするものです。
そのくらいステレオタイプというのは、マーケティングには役にたつ。
しかし黒人奴隷のイメージだけ勝手に使っておきながら、黒人の地位向上のために貢献してきたわけではないですから、商標の変更は当然のことでしょう。
またこうしたアイデンティティの盗用は、消費者を騙しているともいえるので、これからの企業倫理では購買者に支持されないといえます。
同様に、近年問題視されているのが、ネイティブ・アメリカンをマスコットやロゴとして扱うこと。
全米では、約450社が先住民をロゴに使用しています。
なかでも著名なアメリカンフットボールのチーム「ワシントン・レッドスキンズ」の名称とロゴは、差別にあたると論争を呼んでいます。
食品会社では、ネイティブ・アメリカンの絵をあしらったLand O Lakes(ランド・オー・レイクス)も、2020年に従来のロゴを変更することになりました。
同社はミネソタ州で、1921年に320の酪農家が協業して立ちあげたもの。

パッケージでは「ミア」というネイティブ・アメリカンの女性がバターを捧げもっているのですが、実際にはネイティブ・アメリカンが経営しているわけではなく、たんにマスコットというだけ。
同社では今後は「農家が経営していることを前面に打ち出す」と決定して、風景だけのパッケージに変更。
「ネイティブ・アメリカンはロゴやマスコットではない」
という観点から、ロゴ刷新という流れができています。

「そんな細かいことを」
「重箱のすみをつつくようなことを直していたらきりがない」
という意見があれば、そんな重箱の隅にいたるまで浸透していたのが、人種差別だということです。
人種差別というのは、スーパーマーケットの食料品売り場にもひそんでいるもの。
それにオーケイというのか、否というのか、今や多くの企業がその立ち位置を問われているのです。


